東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2569号 判決
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【判旨】
控訴人は、東京都区内における土地賃貸借の合意更新においては、借地権価格の五ないし一〇パーセントの更新料の授受が慣習法ないし事実たる慣習として成立していると主張し、これを前提として、法定更新の場合にも、同様基準の更新料の支払がなされるべきである、と主張する。
借地権が存続期間の満了によつて消滅する場合、借地法第四条第一項本文の更新請求により、あるいは同法第六条第一項の使用継続により、いわゆる法定更新が期待せられるにかかわらず、なお、更新料を授受しての合意更新がなされる事例が巷間、少なくとも東京都区内において少なくないことは、今や公知の事実であるけれども、そのことから直ちに、法定更新の場合にも同様であるべきである、と論じることはできない。
借地法は、合意更新と法定更新の二種の更新方法を認めていると解されるから、借地権者が前者の方途を選ぶことは、もとより借地法の精神に反するものではないが、反面、この両者の比率がどのようになつても、例えば、借地期間満了に際して建物が存するのになお合意更新の方途を選ぶものの比率がかりに九割に達したと仮定しても、その故に借地期間満了時に建物が存する場合の契約更新につき更新料支払が慣習化したとして、慣習法あるいは事実たる慣習の法理を以て、合意が整わずに法定更新に立ち至つたような事態までも律するのは、借地法が右両種の更新を区別し、法定更新においては借地権者側からの更新の対価の出捐を問題とせずに更新の効果を発生させることとした制度の趣旨に明らかに反することとなろう。
たしかに、更新料授受の合意がなされないまま推移すれば法定更新となる場合において授受の合意がなされるという事態は、一見「法定更新に際して更新料が授受された」と受け取られ易い側面があることは否定できない。しかし、法定更新に際しては借地法第四条第一項但書に規定する「正当ノ事由」の存否が争いとなる可能性があるから、借地権者としては「正当ノ事由」が肯認され更新が否定されることとなる危険を回避するためには金員の出捐を辞さぬ場合もあろうし、また、賃料増額についての土地所有者との交渉の労を省くため、賃料補充の意味で相当額の出捐をも合理的と了承する場合もあろう。そのような考えを持つ借地権者が、あえて同法第四条第一項、第六条第一項による更新の効果の亨受を捨てて、進んで更新料の授受を伴う更新という方途を選んだ以上、それは既に法の予定する法定更新ではないのであるから、このような事態を「法定更新に際して更新料の授受された」事例と見るべきではないのである。「宅地賃貸借契約の法定更新に際し、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しない。」(最高裁判所第二小法廷昭和五一年一〇月一日判決)というべきである。
(杉山克彦 倉田卓次 井田友吉)